自遊通信 No.52(2012 冬)

発 行 自遊学校 文/河原木憲彦 絵/野口ちとせ



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2011年一番記憶に残ったこと。
9月の終わり頃、三陸沿岸を自動車で通った。津波の被害をTVや新聞で見ていたからある程度知識はあったが、自分の目で見た被災地はそんな知識を越えていた。積み上げられたがれき、がれき、どこまでもがれきの山。大型バスが上に乗りかかったままの3階建ての鉄筋コンクリートの建物。津波で町が流された岩手県大槌町はほとんど真っ平らで、基礎だけ残った建物跡には突き出た短い鉄筋がひん曲がって錆びて茶褐色になっていた。視界を遮るのは廃墟になった鉄筋の建物が数棟。平らになった町を海から見ると緑に覆われた山々が向こうにくっきり見えた。一瞬で消えた町の跡を見渡して、ことばを失った。
あれから3か月経つが、あのときの思いを表すことばをまだ見つけられない。なぜ、あんなにショックを受けたのだろう。目に映るものは現実の貧弱な影でしかないとタピエスは言ったが、津波が「現実」を現して見せたからか。TVや写真の映像はイメージであって正に「貧弱な影」と思い知ったからか。あるいは人間の無力を見せつけられたからか。それとも、あのとき、こう思ったからか。
「なんだ、奇跡って特別なことじゃない。今こうして生きてる。これって奇跡や。」奇跡といえば、自遊学校の近くの空家に移住したいという人が現れた。
長野県でイタリア料理店を営んでいるご夫婦。店をたたんで近々引っ越してくると。こんな僻地に? ホンマかいなと村人は信じがたい様子。でも、どうやら 本当みたいな。

 葉を落とし裸になって待つ桜



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