No.34 (2005 秋・冬号)

発 行 自遊学校  文/河原木憲彦  絵/野口ちとせ 




映画が特別好きなわけではない。俳優の名前も監督の名前も、少ししか知らない。でも、前からプロジェクターは欲しかった。どうせ見るなら画面は大きい方が良い。それで、昨年、思い切って映画鑑賞用のプロジェクターを買った。といっても家庭用のちゃちなものだが。以来、週末の夜は暗くなるのを待って映画を見るのを楽しみにしている。この夏は校庭で野外上映会もやった。いまは寒いので室内で見ている。先日は「ナビィ の恋」を見た。監督は中江裕司。沖縄が舞台で、79歳の老婆が60年ぶりに会った初恋の男と駆け落ちするという、何ともロマンチックな、沖縄音楽が全編に溢れる心地よい映画。監督はミュージカル映画を撮りたかったそうだ。この映画は、出てくる女が皆たくましい。男は優しく物わかりがいい人ばかり。反対に無骨な男とその息子の確執を描いた「村の写真集」は四国徳島県が舞台の三原光尋監督作品。徳島の奥山の風景に圧倒される。こんな天空に住む人たちがうらやましくなって、山も良いなあと思ってしまうこと請け合いの佳作。舞台は海と山で対照的だが、両作とも安心して家族みんなで見られます。最近の映画はどぎついのが多いから、こういう作品を 見るとホッとする。

一番最近見たのが「ギター弾きの恋」というウディ・アレン監督作品。原題は「Sweet And Lowdown」。エヌメット・レイという1930年代に活躍した実在のジャズギタリストをショーン・ペンが演じている。これが何ともごきげんな映画で、最近見た中では私は一番気に入った。冒頭にジャンゴ・ラインハルトの演奏が流れる。そ
れを聴いただけで私は鳥肌が立った。ジャンゴを崇拝していたというエヌメット・レイ(ショーン・ペン)の演奏場面が、これまたすばらしい。ノリの良いリズムに合わせて、手拍子、足拍子、しまいには踊りだしたりして。エヌメット自身も才能のあるギタリストだったが、ジャンゴの生演奏を聴いて失神したというエピソードが残っている。それを知って、私はいっぺんにエヌメットが好きになった。といっても、エヌメットは相当の変人で、おつきあいしたくなるよな人物ではなかったようだが。ジャンゴ・ラインハルトも変人だったが彼は本当の天才だった。彼の生演奏を聴くことができたら私もたぶん失神してしまうだろう。だが、ジャンゴはとっくの昔に亡くなった。エヌメットはジャンゴのレコードを聴くたびに涙を流していたというが、私もそうするしかない。ここまで書いて私は笑ってしまう。映画の話なのに、私は音楽や景色のことばかり書いている。最後に一言。「ギター弾きの恋」も家族みんなで安心して見られる秀作です。
何の解説にもなっていないなあ、やっぱり。



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