No.29 (2004 夏・秋号)


発 行 自遊学校  文/河原木憲彦  絵/野口ちとせ 









昔の小学校って、玄関に仁王様が置いてあったんですか?」
お客さんにこう訊かれて私は返答に詰まった。
「この仁王さんは漂流物なんです。」そう答えると、
質問者は「へェ〜、そうなんですか.。」
と驚いて等身大の仁王様をしげしげと見ていた。
だいぶ以前、大きな台風が通り過ぎた後、自遊学校のすぐ下の港の船曳場に、この大きな仁王像が漂着しているのを見つけた。像の背面にフジツボがたくさん付いているところをみると、長い間海上を漂流していたもののようだった。造りは少々粗っぽい。台湾あたりで造られたものかもしれない、と思った。
何日かして、誰も持って行く人がいないので、自遊学校まで引っ張ってきて玄関前に置いた。小学校の玄関先に仁王像が置いてあるのを見たことはないが、自遊学校の玄関に置いてみるととてもよくマッチしている、ように私には見えた。いいものを拾ったと、私は喜んでいた。この仁王像については、来校者からよく訊かれる。そのたびに、漂流物であることを私は得々と説明する。そうすると、大概皆さん感心したように「ヘェ〜・・・」と言う。
「ヘェ〜、こんな漂流物初めて見た。ええもん拾いましたな。」
と、皆さん思っているものだと長年私は思っていた。しかし今夏に冒頭の質問を受けたときに、ふと思った。
「もしかしたら、ちゃうかもしれん。」そういえば、当校は家族連れのお客さんが多いが、小さな子供は玄関に来ると「恐い」と言い出すことがよくある。子供がそう言うのは、当校の建物が古くてオンボロのままだからだと、思っていた。大人でも恐がる人はいる。このまえ下見に来た大学のサークル仲間という4人組のうち女の子2人は自遊学校の校舎に入る前から不安と緊張で体が後ろにのけぞっていた。
丸く見開かれた目はそう語っているようだった。その後、このサークルからキャンセルの電話がか
かってきたことは言うまでもない。しかし、いま思うと、彼らののけぞった体は、もっと多くを語っていた。「怪しいと思ってきたら、やっぱり玄関に仁王像なんか置いてる。なんかの宗教じゃない、これって。気持ちわる〜い!」
そうかー、この仁王様がかっこいいと思っていたのは私だけなんだ。確かに宿屋の玄関に飾るものじゃないわなあ。でも、よく見ると愛嬌ある顔してるんだけどなあ、この仁王様・・・ 。

   柿 ひ と つ 手 に の せ て み る 秋 に お う

  

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